唐突ですが問題です。「せせり」とは何のことでしょう?
・・・“せせらぎ”?
・・・和食の何か?
・・・???
答えは「お肉の部位」です。「せせり」という言葉自体が初耳の人も多いのではないでしょうか?スーパーや精肉店でも「せせり」として売られているお肉はほとんど見たことがありません。
「せせり」は主に鶏肉の首回りの部位をさします。鶏せせりは鶏の首の筋肉にあたる部位で、身がしまっていてプリプリとした弾力ある食感が特徴です。噛めば噛むほど深い味わいが楽しめる美味しいお肉です。
鶏むね肉のようにパサパサすることがなくジューシーで、鶏もも肉のようなクセがなく、焼き鳥のメニューとしてはポピュラーです。
1. 「せせり」ってどういう意味?
「せせり」は主に鶏肉の首回りの部位をさしますが、“骨から肉をせせる”からそうよばれているといわれています。
「せせる」には“尖ったもので繰り返しつつく”とか“つついて掘る”という意味があり、首回りのお肉をとるとき、あるいは食べるときに、首の骨についたお肉を「せせる」動作から「せせり」とよばれるようになったと考えられています。
関西弁で「せせる」というと、“箸などで魚の身を骨から外して食べること“を意味するのだそうです。もしかすると「せせり」というのは、関西で生まれたよび名なのかもしれません。
ちなみに熊本弁にも「せせる」という同じ音の方言がありますが、こちらは“触る”という違った意味になります。
鶏せせりは手もしくは包丁で丁寧に削ぎ取る必要があるそうです。削ぎ取られた肉は本来細長い形をしているのですが、さばく過程で首の部分が切られてしまっていたりするため、短くぶつ切りのようになってしまう鶏せせりも多いそうです。短い鶏せせりは丁寧に削ぎ取られた長い鶏せせりよりも安価です。
2. 「せせり」は鶏肉だけ?
鶏せせりは「ネック」、「み」、「小肉(こにく)」とよばれることもあります。
ラム肉の「ネック」も「せせり」とよばれます。ラムの肩に近い部位で、首の後ろ側にあたります。鶏肉同様「小肉」とよばれることがあり、首の骨の入り組んだところにあるお肉なのだそうで、まさに“せせりとられたお肉”といえそうです。
1枚あたり20〜50gと小さく、赤身でゼラチン質を含み、ラム特有の臭みも少ないラム肉のせせりは、煮込んでも焼いても美味しいそうです。
では、豚肉や牛肉の「ネック」も同じように「せせり」とよばれるかというとそうではありません。
豚肉のネックの油を除去した部位は「豚トロ」とよばれます。1頭から数百グラムしかとることのできない希少な高級部位です。「豚トロ」は脂身が多く、その断面が魚のトロに似ていることから“豚のトロ”、「豚トロ」とよばれているそうです。豚の臭みがなくとても柔らかいのが特徴で、焼肉や焼き鳥屋さんのメニューとしてよく見かけます。スーパーなどでも「豚トロ」を安価に購入することができますが、これは代替品として加工された豚の背脂なのだそうです。
牛肉のネックは牛の首筋にあたる部位で、別名「ねじ」とよばれていますが、これは“ねじる”に由来しているといわれています。豚肉のネックとは違い脂肪分が少ない赤身のお肉です。味は濃厚ですが、キメが粗くて筋っぽく硬い肉質のため、煮込み料理やひき肉、細切れとして利用されます。
3. 「鶏せせり」のカロリーは?
プリプリとした弾力のある食感がクセになって、小さめの身は次から次へとつい、いくらでも食べてしまうことができる鶏せせりです。見た目はそうでもないように見えても、実は鶏もも肉や手羽よりも脂身が多いようです。
鶏のメジャーな部位を100gあたりのカロリーが高い順に並べてみると
第1位 手羽 211kcal
第2位 皮付きもも 200kcal
第3位 皮付きむね 191kcal
第4位 皮なしもも 116kcal
第5位 皮なしむね 108kcal
第6位 ささみ 105kcal
となります。
100gあたりのカロリーでみると、鶏もも肉は皮付きでも200kcalであるのに対して鶏せせりは215kcal。カロリーの高さからもその脂の多さがわかります。
一般に皮を取り除いてしまえば低カロリーというイメージのある鶏肉です。焼き鳥屋さんでは皮付きではないからと安心してせせりばかりを注文してしまうと、思いがけずに高いカロリーを摂取してしまっていることになるのかもしれません。
おわりに
鶏のせせりは1羽から20g程度しかとれない希少な部位です。焼き鳥屋さんのメニューにある以外市場にあまり出回っていないのは、その希少さからともいわれていますが、“せせり“には細かい作業が必要となるため、人手不足の影響もあって生産自体しない業者もあるのだそうです。
それなら尚更希少な高級食材として扱われそうなのに、ブランド鶏などでない限りはとても安価に手に入ります。その理由は、鶏せせりには需要が少ないからといわれています。“せせり”に手間をかけても需要がなくて低価格では生産意欲も湧きにくいのは納得です。もっとも、存在自体知られていなければ需要も生まれないとも思うのですが。
こんなに美味しい鶏せせりを知らないなんてもったいないと思う反面、需要が増えて価格が上がってしまうよりも、今のまま知られずにひっそりと、美味しく手ごろに楽しめるマイナーな部位であってほしいと思うのが、鶏せせりファンとしての本音です。